架空の場面から始めます。
減速機をつくる会社が、展示会にブースを出しました。説明員はデモ機を動かしながら、内部の歯車がどう噛み合い、なぜこの大きさでこの力が出せるのかを説明します。来場した技術担当の方は何度もうなずき、いくつか質問をして、カタログと名刺を受け取って帰っていきました。
後日、お礼のメールとカタログの PDF を送りました。返事は「社内で検討します」。そこから先に進みません。
「温度感が低かった」と片づける前に
こうしたとき、次のように振り返ることが多いかもしれません。
- あの来場者は、まだ情報を集めている段階だった。
- フォローの連絡が遅かった。
- 次の展示会では、もっと多くの名刺を集めよう。
どれも、実際に成果を左右する要因です。展示会のあとの連絡の早さや、相手の検討段階に合わせた連絡が大事だということは、多くの解説で指摘されています。ただ、この場面にはもう一つ、見落としやすい条件があります。
平拓では、この現象を「理解の伝言ゲーム」と呼んでいます。会場で伝わった製品の価値が、来場者から社内で決める人へ説明し直されるうちに、抜け落ちていくことです。
見落としやすい条件:理解は、二度受け渡される
製品の価値が購入の判断にたどり着くまでに、理解は少なくとも二度、人から人へ受け渡されます。
- 説明員から来場者へ。会場では、現物と動きと、質問への答えで伝わります。
- 来場者から、社内で決める人へ。ここでは、持ち帰った資料と、来場者自身の言葉だけで伝えることになります。
一度目は、うまくいっていたのかもしれません。問題は二度目です。会場で来場者を納得させたものの多くは、二度目の受け渡しには持ち込めません。
| 会場で伝わったもの | 持ち帰った資料で伝わるか |
|---|---|
| 仕様の数字(寸法・定格・価格帯) | 伝わる。カタログに載っている |
| 内部がどう動くか(デモ機・現物) | 写真と文章に置き換わる |
| 質問への答え(説明員の言葉) | 残らない。来場者の記憶に頼る |
| 自社の現場に合いそうか(その場の会話) | 残らない。来場者が説明し直す |
決める人が会場に来ていない場合、来場者は「なぜこの製品がうちに合うのか」を、自分でまとめ直して社内に説明することになります。
営業支援のツールを提供する会社が、BtoB の購買・発注の意思決定に関わった経験のある会社員 100 名に行ったインターネット調査では、意思決定に関わる人全員が営業と直接話せたのは 11.5%(この設問の回答 87 名)にとどまりました。営業と直接話していない上司・役員・他部門の人へ情報を伝えた回答者(77 名、複数回答)の 57.1%は、商談の内容を自分でまとめた資料(メモ・要約・スライドなど)を作って共有していたと報告されています(株式会社エヌケーエナジーシステム、2026年5月14日の発表。PR TIMES)。展示会に限った調査ではなく、自社の製品に関わるテーマで行われた小規模な調査なので、一つの参考にとどまります。それでも、話を聞いた人と決める人が別になりうることは、この調査からも読み取れます。
自社で確かめる問い
- 購入を決めるのは誰ですか。その人は展示会の会場に来ていますか。
- ブースで最も多く聞かれた質問は何ですか。その答えは、持ち帰る資料に載っていますか。
- 来場者が社内で最初に聞かれそうな質問は何ですか。持ち帰った資料だけで答えられますか。
- 会場でいちばん伝わったのは、現物・デモ・説明のどれですか。それを会場の外で再現できますか。
- 展示会のあと、どの資料が相手の社内で転送されているか、分かっていますか。
選択肢
会場の理解を社内まで届ける方法は、一つではありません。製品と、決める人によって合うものが変わります。
- 持ち帰り資料を、社内説明用に作り直す。 仕様の一覧ではなく、「どんな現場の、どんな問題に、なぜ合うのか」を、決める人の言葉で一枚にまとめる。
- 会場での質問と答えを、そのままフォローに使う。 その人に説明した内容から始まる連絡のほうが、一般的なカタログより、相手の社内で使ってもらいやすいと考えています。
- 短い動画で、内部の動きを残す。 現物の動きが価値の中心なら、それだけで足りることもあります。
- ブラウザで動かせる 3D で、内部・断面・動きを持ち帰ってもらう。 写真では伝わらない構造を、決める人が自分の手で確かめられるようにする。
- 何も新しく作らず、ブースでの説明の順番を変える。 来場者が社内で説明しやすい順番で話す。
KARAKURI Viewer で決めたこと
平拓の KARAKURI Viewer は、この二度目の受け渡しを助けるための 3D 製品ビューアです。設計では、いくつかのことを決めました。
持ち帰れることを、最初から前提にする。 選んだ材質・オプション・表示の環境は URL に残せ、誰が開いても同じ構成から始められます。ブースで説明した内容を保存して、QR コードで持ち帰り、上司や関係者に共有することもできます。
3D は、理解を早くするための道具として使う。 「この部品は何か」より先に、「この一群は何の働きをしているのか」に答えられるようにしています。減速機なら、動力を入れる部分、回転を落とす部分、支える部分というように、働きごとにまとめて見せます。
3D で理由を見せられない判定は、つくらない。 条件に合うかどうかの目安を示す場合も、なぜそうなるのかを 3D で見せられるものだけを機能にしています。数字だけの判定は、ただの入力フォームになってしまうからです。最終的な判断は、メーカーの担当者による確認を前提にしています。
会場では、通りがかりの人を引き込む自動再生、説明員が場面を切り替えるプレゼン、来場者が自分で触るキオスクと、場面に合わせて表示を切り替えられるようにしています。
関連する支援
どの部分を、どの順で、どこまで見せるべきかは、製品によっても、決める人によっても変わります。平拓は、いきなり 3D を作るのではなく、まず誰が何を期待し、どこで理解が止まっているのかを確かめるところから始めます。3D を作らないほうがよい、という結論になることもあります。
製品の中身を見せ、持ち帰ってもらうための仕組みが KARAKURI Viewer です。何が伝わっていないかを確かめるところからのご相談は、商品・ブランド・営業の場面の診断をご覧ください。
※本文の展示会の場面は、説明のための架空の例です。


